ドラムの演奏において、バスドラムはビートの要。
そのバスドラムを鳴らしているのはキックペダルです。
キックペダルが思い通りに動くかどうかで、演奏の善し悪しも変わってきます。
ここでは、自分に合った踏み心地にする調整のコツをお伝えします。
目次
キックペダル(フットペダル)の仕組み
キックペダルの調整に入る前に、各パーツの名称や役割について触れておきましょう。
【ビーター】
キックペダルを踏んだ際、バスドラムに当たるパーツ。
ビーターには様々な種類があり、交換することでバスドラムの音色を変えられる。
ビーターの角度や長さは調整可能で、踏み心地やバスドラムの音量に関係してくる。
- フェルト
昔からビーターに使われているスタンダードな素材。適度なアタック音と低音が魅力。
- プラスチック
黒い面がプラスチック。フェルトと両面で使われる事が多い。フェルトよりもアタック音が出る。
- ウッド … この中で最も固い音が鳴る。周りの音が厚い曲でバスドラムの音が埋もれないようにする効果も。
- ラバー … プラスチックとウッドの中間。ベチっとした特徴的な音色。
【カム】
キックペダルを踏んだ力をビーターまで伝達するパーツ。歯車に相当する。
カムは大きく分けて2種類の形状があり、真円カムと偏心カムと呼ばれる。
・真円カム … 回る軌道が真円のため 、動き方が一定で癖の少ない踏み心地。
・偏心カム … 回転軌道が真円ではなく、ビーターが途中で加速する。パワフルなサウンドを得られる。
その他、パーツを変更する事で真円と偏心を入れ替えられるペダルや、ペダル自体にカムの形状を変える機構を取り入れたペダルもあります。
【チェーン】
フットボードとビーターを繋ぐパーツ。
キックペダルの駆動方式(ドライブ方式)の事を指し、他にベルトで繋ぐ方式や、金属パーツで直結させる方式がある。
カムと並び、ペダルのアクションに大きな違いが生まれる箇所。
・チェーンドライブ
現代のキックペダルでは最もメジャーなドライブ方式。1本のチェーンで繋ぐ「シングルチェーン」と2本のチェーンで繋ぐ「ダブルチェーン」がある。
ダブルチェーンの方がパワフルで安定感のあるサウンドを得られるが、踏み心地はやや重くなる。
シングルチェーンは、ややパワーに劣るが軽快な踏み心地が魅力。
・ベルトドライブ
ゴムやナイロンなどのベルトで接続する方式。
チェーンよりもパワーに劣るが「しなり」があり、軽快なアクション。独特のしなやかな動きに愛好者も多い。
・ダイレクトドライブ
金属のシャフトで直接引っ張る方式。踏んだ力がそのまま伝わり、反応も速い。
遊びがなく、直線的な動きをする傾向があるため好みが分かれやすい。
【スプリング】
キックペダルを踏むと伸び縮みして、ビーターやフットボードを戻すバネ。
スプリングの張力は調整可能で、踏み心地やペダルの返りに関係する。
【フットボード】
足を乗せて踏みこむボード。表面が平滑なのか凹凸があるのか、ボードのデザインによって踏み心地にも影響する。
通常はビーターの角度を調整するとフットボードの角度も連動して変わるが、上位機種だとフットボードの角度を単独で変えられるペダルが多い。
【フープクランプ】
バスドラムのフープ(枠)に引っ掛けて固定する部分。一般にネジで締めて固定する。
キックペダルの調整
通常、キックペダルで調整できるのは、スプリングの張力・ビーターの角度・ビーターの長さの3箇所です。
この3つを調整して、ペダルの踏み心地やスピードを自分に合ったものにしていきます。
ビーターの長さの調整
ビーターの長さの調整はシンプルなので、先に決めてしまいましょう。
ビーターの長さは、ペダルを踏んだ時にバスドラムの中心か、それよりもやや上か下に当たるように調節してください。
理由は、バスドラムの良い響きを得られるポイントが中心周辺である事が多いからです。
ビーターの長さ調整に使うネジはこの部分。
チューニングキーでネジを緩めるとビーターが動かせるようになるので、バスドラムに合わせて丁度良い長さを探ります。
位置が決まったら、ペダルを踏んでバスドラムにビーターを押し当てながらネジを締めると、ずれずに狙った位置で止められます。
スプリングの調整
キックペダルのスプリングは、伸び縮みしてビーターやフットボードを元の位置に返す役割をしています。
ペダルを踏むとスプリングが伸びていってテンションが掛かり、足が離れると縮んで戻ります。
「ペダルを踏むとスプリングが伸びる」という事は、足にスプリングを伸ばす為の力が掛かっていることになります。
スプリングをきつくするほど、バネを伸ばす力が必要になる(ペダルを踏むのが重くなる)わけです。
【スプリングの調整方法】
一般に、キックペダルのスプリング部分は2つのナットで上下に挟み込むことで固定しています。
この2つのナットは反時計回りで上に、時計回りで下に動くようになっています。
調整の手順は次の通り。
①上のナットを反時計回りに回して上に動かす。
②下のナットを時計回りに回すとスプリングがゆるく、反時計回りできつくなる。
ペダルによってはナット部分にゆるみ止めの仕組みがあり、そのままでは回らない事があります。
画像は「TAMA(タマ)」というメーカーのペダルですが、下のナットの三角形と柱のパーツがはまる作りになっています。
③スプリングを希望の強さにしたら、上のナットを時計回りに回してきっちり締めて調整完了!
スプリングの強さによる違い
次の2枚の画像は、スプリングの強さだけをそれぞれ緩め・きつめに調整したものです。パッと見では、スプリング下のネジの長さが違いますね。
よく見ると、緩めに調整した方はスプリングがまだ伸びておらず、きつめに調整した方はスプリングが踏む前から伸びています。
その差、約0.7cm。数字にすると小さな違いですが、実際踏んでみるとかなり踏み心地が変わります。
緩めに調整している方は、バスドラムに当たる直前までスプリングに殆どテンションが掛かりませんので、力を入れずにペダルを踏むことができます。
きつめに調整した方は既にスプリングが伸びているので、踏み始めから力が必要な状態ですね。
そこから更に踏んでいくので、スプリングが伸びる量も増えます。そして伸びた分だけ縮む勢いも強くなるので、ペダルの戻りが速くなるわけです。
スプリング調整について要点をまとめます。
- スプリングが緩いほど 踏むのが軽くて楽・ペダルの戻りが遅くなる
- スプリングがきついほど 踏むのが重くて辛い・ペダルの戻りが速くなる
もし調整の範囲以上にスプリングをきつく(緩く)したいのであれば、スプリング自体をより張力が強い(弱い)ものに交換するのも方法の1つです。
ビーターの角度の調整
ビーターの角度は、大きくするほどペダルの返りが速くなりますが、それと同時に踏み込む力も必要になってきます。
ビーターの角度調整をするネジはこの部分です。
やり方は、チューニングキーで緩めて、ビーターを希望の角度にしたら締めるだけです。
では、ビーターの角度によってどのような違いが出るか比べてみましょう。
どちらもビーター(フットボード)の角度以外まったく同じセッティングで、スプリングのテンションは緩めです。
それぞれ、スプリングが伸び始める程度に足を乗せてみましょう。
ここまでの踏み心地やスプリングの角度・伸びはほぼ同じですが、ビーターの角度が大きい方はバスドラムに当たるまで距離がありますね。
この距離の分だけ多くスプリングを伸ばすので、ビーターの角度が大きいとペダルを踏むのが重くなり、伸びた分返りは速くなるわけです。
またペダルを踏み切れることが前提ですが、ビーターの角度が大きいほどバスドラムの音量も大きくなります。
キックペダルの調整 まとめ
キックペダルの調整のポイントをまとめます。
【スプリングの張力】
・ゆるい … 踏むのが軽くなる、ペダルの返りが遅くなる
・きつい … 踏むのが重くなる、ペダルの返りが速くなる
【ビーターの角度】
・小さい … 踏むのが軽くなる、ペダルの返りが遅くなる、音量小
・大きい … 踏むのが重くなる、ペダルの返りが速くなる、音量大
【ビーターの長さ】
バスドラムの中心周辺に当たるよう合わせる
どのようなセッティングがベストかは、ペダルの踏み方や求める音楽、当人の感覚にもよるので一概には言えませんが、
スプリングの張力(強中弱)・ビーターの角度(大中小)を組み合わせて 3×3 = 9 通り踏んでみると、自分に合ったセッティングが見えてくると思います。
例えば、スプリングがゆるくても、ビーターの角度が大きければペダルの返りは素早く、バスドラムの音量も稼げます。
キックペダルの調整は、とにかくペダルの戻りを速くする事に気を取られがちですが、自分が扱える範囲でバランスを取ったセッティングの方が無理なく速く踏める事も多いです。
様々なテンポや音符で踏めるか、長時間コントロールできるか、音量はきちんと出ているかを目安に試してみてください。